税務調査で推計課税されるときの方法や注意点

個人事業主や法人が帳簿書類を適切に保存していないときなどには、税務調査で推計課税が行われることがあります。今回は、推計課税とは?推計課税の方法や注意点について、税理士がポイントを解 … 続きを読む 税務調査で推計課税されるときの方法や注意点

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個人事業主や法人が帳簿書類を適切に保存していないときなどには、税務調査で推計課税が行われることがあります。今回は、推計課税とは?推計課税の方法や注意点について、税理士がポイントを解説します。

推計課税とは?推計課税の方法は?

税務調査では、帳簿書類をチェックし、正しい申告が行われているかどうかの確認がされます。帳簿書類に誤りがあれば、それを正した上で、追徴課税がされます。このような方法を実額課税と言います。

しかし、中には、帳簿書類がない、帳簿が信用できない、帳簿書類はあるが調査官に提示しないなど税務調査に協力しない、なども起こります。帳簿書類を前提とした実額課税では、このような場合に追徴課税ができないこととなってしまします。しかし、それでは帳簿書類を破棄したら追徴課税を免れることができることとなってしまい公平ではありません。そのため、推計課税という方法により追徴課税が行われます。

推計課税とは、売上や経費などの実額がわからないときに、資産や負債の状況、同業者の状況、生産量や販売量などの他の情報から所得を推計して、課税する方法です。

直近1年間は帳簿を作成しているが、それ以前は帳簿を作成しておらず、経費の請求書なども破棄してしまっているが、通帳から売上はわかる、というような状況を例に見てみましょう。このようなとき、直近1年間の実績をもとにして、経費率(売上高に占める必要経費の割合)を算定します。そして、帳簿書類が保存されていない期間については、売上高に直近1年間の経費率を乗じて必要経費を算定し、所得を推計し、推計された所得に基づいて税額を計算する、ということが考えられます。

また、個人事業主の場合は、家族の人数や状況をもとにした生活費や教育費、住宅費などから逆算して所得を推計することもあります。例えば、配偶者は無職、私学に通っている子が2人、住宅ローンで毎月10万円返済、しているとすれば、生活費月10万、教育費月15万、住宅費月10万で毎月35万円がかかっている。預貯金に変動がなければ、少なくとも35万円×12カ月=420万円/年の所得はあったはずであろう、というような推計をされます。さすがにここまでざっくりとした推計がされるのは、他に情報がほとんどないような場合に限られます。

どのような場合に推計課税が行われる?

推計課税の根拠となる条文は所得税法第156条で、次のように規定されています。

税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができる。

また、法人税法においても第131条でほぼ同様の規定が設けられています。

ここでポイントとなるのは、青色申告をしている場合は推計課税の対象とはならない、ということです。ただし、青色申告の承認を受けていたとしても、帳簿書類が適切に作成され保存されていなければ、青色申告が承認取消しされた上で、推計課税が行われることがあります。青色申告をしているから、帳簿書類を保存していなかったり、正しい帳簿ではなくても推計課税されることはない、ということではありませんので注意してください。

なお、法律上は、具体的にどのような場面で推計課税をするかについては、規定されていませんが、一般的には、①納税者が帳簿書類を残していない、または、残していても不正確で信用できない場合や②納税者が税務調査に協力しない場合などで、実額課税を行うことが困難な場合に推計課税が行われることとなります。

税務調査で推計課税されるときの注意点

税務調査で推計課税が行われることとなった場合、次の点に注意してください。
なお、このような段階に至ったときは、知識や経験がある税理士に相談した方がよいでしょう。

・所得が過大に推計される可能性がある

推計課税で注意しなければならないのは、先ほどの例のように他の情報から所得を見積もって課税されることとなるため、所得が過大に計算され、結果として税額が多くなることが考えられます。調査官が推計した所得が実際よりも過大ということであれば、もっと合理的な方法による推計を示し、調査官を納得させる必要があります。

・原則として、消費税の仕入税額控除を受けることができない

消費税の仕入税額控除をするためには、原則として、帳簿への必要事項の記載や請求書や領収書等の保存をすることが要件とされています。そのため、所得税や法人税の計算にあたって必要経費を経費率で見積もる場合のように、仕入税額控除の金額を推計する、ということは通常行われません。つまり、適切な帳簿や請求書や領収書等がないと、消費税の計算上は経費が計上できない(仕入税額控除できない)こととなり、その分、消費税が多額に計算されることとなります。
なお、これにより課税が著しく不公平になる場合など、場合によっては合理的な範囲で、消費税の仕入税額控除が認められる可能性もあります。

 

まとめ

推計課税について解説しました。税務調査で、推計課税が行われると、実際よりも税額が多くなる可能性があります。まずは、そうならないように適切に帳簿書類を作成・保存しておくことが大切です。実際に推計課税が行われ、調査官の提示する税額が実際よりも多くなりそうなときは、より合理的な方法による推計をもって反証し、調査官を納得させなければなりません。自身で難しいときは税務調査・期限後申告相談センターにお気軽にご相談ください。