源泉所得税の税務調査のチェックポイント

源泉所得税は、実際に負担するのは収入があった人(従業員など)ですが、納税義務は給与の支払者等(会社や個人事業主など)にあります。そのため、源泉所得税についても税務調査が行われること … 続きを読む 源泉所得税の税務調査のチェックポイント

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源泉所得税は、実際に負担するのは収入があった人(従業員など)ですが、納税義務は給与の支払者等(会社や個人事業主など)にあります。そのため、源泉所得税についても税務調査が行われることがあります。源泉所得税の調査は、法人税(所得税)や消費税の税務調査と併せて行われることが多く、調査日程の最後にそれほど時間を割かず確認されるだけで済むこともあります。しかし、多くの従業員を抱える会社や報酬の支払い件数が多い事務所などでは、単独で源泉所得税の調査が行われることもあります。
今回は、源泉所得税の税務調査のポイントを税理士が解説します。

源泉所得税の税務調査のポイント

源泉所得税の税務調査のポイントは次のとおりです。なお、税務調査の結果、正しく源泉所得税が計算されていないと判断された場合には、まず、会社(または個人事業主)などの源泉所得税の納税義務者が税務署に源泉所得税を納めます。ただし、これは、本来、収入があった人が負担すべき者ですので、その後、会社と収入があった人との間で精算をすることとなります。

①役員報酬や給与・賃金についての源泉徴収は正しく行われているか?

役員や従業員の源泉所得税額の計算や年末調整の計算が妥当どうかについて、給与の基礎資料や扶養控除等(異動)申告書をもとに確認されます。アルバイトやパート、外国人研修生などに対する給与についても、たとえ短期間の勤務であっても、「給与所得の源泉徴収税額表」を使って、源泉徴収をする必要があります。
また、税務調査では、扶養控除等(異動)申告書等が中途入社の者も含めて、全役員・全従業員の分が揃っているかについても確認されます。源泉徴収義務者は、次の書類を、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存していなければなりません。

・給与所得者の扶養親族等(異動)申告書
・従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書
・給与所得者の配偶者特別控除申告書
・給与所得者の保険料控除申告書
・退職所得の受給に関する申告書
・公的年金等の受給者の扶養控除等申告書
・給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書

なお、税務調査の際は、調査対象期間の書類をすぐに提示できるようにしておけばよいでしょう。それ以前の期間の分は倉庫などに保管しておいても大丈夫です。

②非居住者を扶養親族とした場合、親族関係書類、送金関係書類を入手しているか。

国外に居住している親族を対象として扶養控除を適用するときは、源泉徴収義務者は、親族関係書類(戸籍にあたるものなど親族であることを証明する書類)と送金関係書類(外国送金依頼書の控えなど)を確認しなければなりません。
源泉徴収義務者が確認をしていなかったときは、国外に居住している親族を対象として扶養控除を適用することができません。適用しなかった場合との差額を追加で納める必要が生じます。
これは、最近の源泉所得税の調査では重点的にチェックされる事項の一つです。

③非課税限度額を超える通勤手当は課税対象に含めて計算しているか。

通勤手当、通勤交通費については一定限度額までは非課税とされていますが、非課税限度額を超えた金額については課税対象に含まなければなりません。
マイカーや自転車を使って通勤している従業員に対しては、通勤距離に応じた1か月あたりの非課税限度額が決められています。税務調査では、「通勤手当の申請書」をチェックされ、従業員が会社に申請している距離が正しいか、というような確認をされることもあります。

④経費の中に給与所得として課税すべきものは含まれていないか。

会社の経費に計上しているものでも、税務調査で、それが役員や従業員の個人的な支出と判断されると、経費性が否定され、役員や従業員に対する給与と認定される可能性があります。
その結果、役員や従業員に対する給与が増えることとなるため、源泉徴収税額も多くなります。例えば、役員がプライベートで行ったゴルフ代やスーツ代などが考えられます。

また、成績優秀者に対して表彰金や商品券を支給した場合なども、給与所得として課税する必要がありますので、源泉徴収をしなければなりません。ただし、記念品(創業記念品や永年勤続表彰記念品など)を支給した場合は、それが社会一般的にみて相当と認められる範囲のもので、一定の要件を満たすときは給与所得として課税しなくてもよいこととなっています。

⑤退職金の源泉徴収税額の計算は正確に行われているか?

退職金についても源泉徴収の対象となります。この退職金から源泉徴収する税額は、退職者から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けているかどうか、で異なります。「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていないにも関わらず提出されているものとして源泉徴収税額を計算していないかどうかや正確に計算されているかどうかの確認をされることとなるでしょう。

⑥海外赴任者の取扱いは正確に行われているか?

役員や従業員が転勤等により常時海外で勤務することとなった場合には、所得税法上の非居住者となります。非居住者である従業員については、国内の勤務に基づく給与が国内で支払われる場合を除いて、源泉徴収の必要はありません。しかし、役員についてはその取扱いが異なり、内国法人の役員としての海外勤務に対する給与は、所得税の課税対象となり、源泉徴収が必要となります。

⑦税理士・弁護士等に支払った報酬について、正確に源泉徴収しているか?

個人事業者である税理士や弁護士等に報酬・料金を支払いする場合には源泉徴収をしなければなりません。顧問税理士などで毎月支払っているような場合には、正しく源泉徴収をしていることが多いでしょう。ただし、スポットでの支払をする場合は源泉徴収の漏れが起こりやすいので注意しましょう。また、個人にデザイン料や原稿料を支払う際にも源泉徴収が必要です。

⑧海外への支払で源泉徴収が必要なものについて、源泉徴収しているか?

非居住者に対する配当・ロイヤリティの支払ったときや不動産の賃借料・売買代金の支払をしたときで一定の場合には源泉徴収が必要となります。一定の場合には、租税条約に基づいて軽減や免除を受けることができますが、軽減や免除を受けるためには「租税条約に関する届出書」を提出していなければなりません。
海外との取引がある場合には、源泉徴収が必要な取引について源泉徴収漏れがないかどうか、「租税条約に関する届出書」が提出されていないのに租税条約に基づく軽減や免除を適用していないかなどについて確認されることとなるでしょう。海外への支払は金額が大きな取引となる場合も多いので特に注意が必要です。

⑨配当を支払ったときに源泉徴収をしているか?

配当を支払う際にも源泉徴収は必要です。また、配当として支払っていない場合でも、自己株式を取得するときなどに「みなし配当」が生じ、源泉徴収が必要となることもありますので注意してください。

 

まとめ

源泉所得税の税務調査のポイントについて解説しました。
源泉所得税は、海外への支払をはじめとして、間違えやすいポイントがたくさんありますので、しっかりとポイントを理解しておく必要があります。いざ、税務調査が入ることとなった場合には、書類の不足や誤りがないかどうかを中心に確認していけばよいでしょう。税務調査でお困りのときはみんなの会計事務所 税務調査・期限後申告相談センターまでお気軽にご相談ください。